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こどもの精神分析―クライン派・対象関係論からのアプローチ

こどもの精神分析―クライン派・対象関係論からのアプローチ

木部 則雄 (著)

本書はメラニー・クラインおよび英国対象関係論の理論,技法に基づいて書かれている。初めに,そのあらまし,背景を記述することで,まえがきを本書の羅針盤としてお読みいただきたい。わが国での「プレイ・セラピー」は「遊戯療法」と一般的に訳されるように,ただ楽しく遊ぶことにのみ視点があるように思える。この「遊戯療法」という用語から「プレイ・セラピー」を想像すると,お遊戯をしているかのように楽しく身体を動かして,攻撃性を発散するという想像しか思い浮かばない。しかし,「Play」という英語の意味は,こどもが無邪気に遊ぶという意味以上に,野球などのスポーツをする,ピアノなどの楽器を演奏する,ある役割を劇で演じるとか,現実で重要な役割を果たすという意味があることに即座に気づくはずである。クラインの治療記録である『児童分析の記録』のクライアントであるリチャードは,数回目のセッションから「Play」でなく,「Work」という単語で自分のセラピーを語っているが,これはとても達観した意見である。クライン派的な「Play Therapy」,つまり「プレイ・テクニック」とは,スポーツのルールような枠組みの中(治療構造)で,楽器のように適切に玩具を使い,音楽の演奏のように自分の無意識の世界を奏でながら,舞台俳優のように現実の世界と異なる自分の無意識の世界をセラピー・ルームという舞台で演じることである。ここには,こどもの空想,攻撃性や悩みに真摯に向き合うセラピストから,理解されることへの喜びや楽しみが存在している。いかなる理由で受診したにも関わらず,セラピストがこどもの悩みに目を向けることなく,楽しく遊ぶことだけが重要と考えるとすれば,とても情けないことである。また,それはこどもの世界を理解するというセラピストの重要な機能を放棄したことになるであろう。
本書の内容は私が1990年から1994年まで留学したタヴィストック・クリニックでの経験が基盤となっている。それゆえに,クライン以後に英国で影響を与えている英国対象関係論のこどもの精神分析家の理論や実践が基盤となっている。英国のこどもの精神分析は,クライン,ウィニコット,ビック,メルツァー,タスティンの影響の下に現代のポスト・クライニアンの精神分析の潮流がある。本書には,適時に理論的な論述が記載されているが,臨床例あるいは臨床素材から,できるだけ自らの想像力と「情緒的知性」を用いて,読んでいただきたい。各章は私が英国から帰国後に書いた単独論文を基に加筆,あるいは2,3の論文をひとつの章にまとめたものである。よって,本書を最初の章から読み続けていただく必要はなく,関心のある章から読んでいただければ幸いである。(「まえがき」より)

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